<フィクション>『幻の柳橋』【5章】平成11年。惜しまれながら、潔く。②(完)

「柳橋新聞」昭和33年7月15日発行より
「柳橋新聞」昭和33年7月15日発行より

【5】―②

多くの人が、柳橋花柳界衰退の原因は川の景観が失われたことだと言う。それが柳橋の魅力を損ねたことは否めない。しかし、本当にそれだけなのだろうか。柳橋がそれほどまで川に依存しきった花柳界だったはずはないのだが。

「もう少し柔軟だったら、生き残れたのでは……」と、千代子は未練がましくも思うのだった。芸者になるための試験が難しくて合格できず、新橋や赤坂に流れた子たちが、その土地で売れっ妓になったと聞いた。浅草の市丸、赤坂小梅、神楽坂はん子が次々とレコードデビューし、鶯芸者として人気者になる中、柳橋は、芸者が二足のわらじを履くことを許さず、芸者か歌手かの二者択一を迫った。料亭は最後の最後まで敷居を下げることなく、一見さんお断りを守り通した。

融通の利かない、頑固な花柳界――。それが柳橋の生き方だったのだろう。 続きを読む <フィクション>『幻の柳橋』【5章】平成11年。惜しまれながら、潔く。②(完)