<フィクション>『幻の柳橋』【4章】昭和37年。変わっていく町。②

柳橋隅田川2【4】―②

遅くやってくる朝は静かで、夕暮れとともに華やかさを帯びる町。しかし、街灯は暗闇を煌々とは照らさずぼんやり灯る、どこか薄暗い町だった。それは、男女の二人連れとすれ違っても、だれなのか顔がはっきりわからない暗さ――この町に必要な、思いやりの暗さだった。

この町の住人は、普段着の芸者の後ろ姿を遠目にするだけで、それが素人ではないと見分けることができた。そんな自分をわかってか、芸者は昼間町を歩くときはあえて目立たないように振る舞うのだが、着こなしや身のこなしの独特な雰囲気は隠せず、周囲に溶け込めずにいるのである。 続きを読む <フィクション>『幻の柳橋』【4章】昭和37年。変わっていく町。②