<東京・八王子> 新春の宴で発見した〝美しき扇形〟

1月3日・八王子芸妓「新春の宴」で幕が開いた2016年

2016セレオ 新春の宴2 昨年から始まった、八王子駅ビルセレオ2階イベントスペースでの八王子芸妓「新春の宴」。テレビドラマの影響もあり予想以上の人出で、すでに椅子は満席、立ち見も多数。しかたなく、誠に失礼ながら3階の通路から芸者衆を見下ろす形になってしまった。しかし、初めてのアングルが意外な発見をもたらす……。扇形に広がる引き着の裾の、なんと美しいこと! 日本髪と裾のボリュームが絶妙のバランスではないか。

2016 セレオ新春の宴3

ちなみに、裾を長く引いた「引き着」を着るのは東京では一本(いっぽん=一人前の芸者)であり、半玉さん(お酌さんともいう。まだ半人前の芸者)は振袖姿で裾はひかないのがふつう。しかし、東京の半玉さんに相当する京都の舞妓さんは裾を引いた「お引きずり」にだらりの帯が特徴だ。

 

2016 セレオ新春の宴6jpg「初春」「松づくし」「梅と松」「並木駒形」「お座敷さわぎ」とお正月らしく賑やかな曲ばかり30分弱の公演。初売りの買い物客でごった返す中、エスカレーターのお客さんも興味深々。通りがかった二人連れの女性が、「本物の芸者さんだよ。京都かどこかから来てるのかしら?」「違うわよ、八王子にも芸者さんがいるのよ」「そうなの。ああいうお仕事もいいわね、綺麗で……」と。終演後、芸者衆はお客さんとの記念撮影に快く応じていた。日本舞踊の素養ありと思しき若い女性が芸者衆に興味深げに話しかけていた。

自分の住む町に芸者さんがいる――。今の時代、これがどれだけ貴重なことか。昭和4年発行の『全国花街めぐり』には、当時「東京15区の各区に少なくとも1か所、多くは3か所、合わせて28花街、約8000人の芸妓がいる。隣接地の約20花街を加えれば約50花街となる」(要点のみ)とある。それが今は、都区内では俗にいう東京6花街(新橋、赤坂、芳町、神楽坂、浅草、向島)のほか大塚、大井海岸などで、多摩地区では唯一八王子を残すのみ(かつては、青梅、調布、府中にもあった)。芸妓の数は東京全体で250人といったところか。

まず地元での知名度を上げる、そして芸者衆を地元の誇りに思ってもらえるような存在になる。これが花街復興の一つのカギだろうか。7年前の八王子芸者は約10名、しかも30代後半のめぐみさんが唯一の若手だった。それが今、20代30代を中心に19名に増え、常時、新しい芸者衆も募集中だ。地元の応援を得、地元の人々を大切にし、イベントにも積極的に顔を出してきた一歩一歩の積み重ねの成果だろう。

盛岡芸妓後援会静岡伝統芸能振興会、元林院花街復興プロジェクト(奈良)、木更津伝統伎芸を守る会(はなまちサポーターズ)などなど、日本各地で地元の商工会議所や有志が花柳界・芸者衆を我が町の財産・観光資源ととらえ、灯を消すまい、との動き始めたことは明るいニュースの一つだ。

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