<新潟・古町>行ってきました「新潟をどり」①。古町花柳界は今、見ごろ (2015/6/21)

ベテラン「お姐さん芸妓」と若手の「柳都さん」、間をつなぐあおいさん

新潟をどり 看板

●古町花柳界が、今とても面白い理由とは

多くの新潟市民は気がついていないかもしれませんが、新潟の花柳界「古町(ふるまち)」は、今、全国的に見ても、また古町の歴史の中でも非常に面白い時期を迎えています。

前の記事でも簡単に触れたように、古町は昭和62年に株式会社形式の芸者置屋を日本で初めて実現させた「社員芸妓発祥の地」です。今から28年前――。この前代未聞の挑戦は大きな話題となり、衰退の危機を感じていた全国の花街が注目。各地から視察に訪れ、山形市、酒田市、清水市(当時)などが古町のシステムを参考に芸者衆を育成する株式会社を設立させたのでした。

新潟お姐さんと柳都さん写真

現在、古町では柳都振興株式会社に所属する社員芸妓の「柳都さん(振袖さん、留袖さん)」と、各々が置屋の看板主である「お姐さん芸妓」が同じ組合(新潟三業協同組合)の仲間として、料亭さんと協力しながら、花街の伝統を時代に合わせて守り続けています。今年、古町芸妓総出演「新潟をどり」の舞台に立ったのは、柳都さん12名(新人のかほりさんを含む)、お姐さん芸妓15名(4月に柳都から独立したあおいさんを含む)でした。*上の写真は平成27年「ふるまち新潟をどり」関連企画チラシ(古町花街の会発行)より一部抜粋。

私が冒頭で、今の古町の面白さを「全国的に」と書いたのは、このような「芸者衆の二層構造」が古町ほど軌道に乗り、定着した花柳界は他にないからです。そして「古町の歴史の中でも」と書いたのは、年月を経て柳都さんの層が厚くなり意識も高まって、若手とお姐さん芸妓の一体感が強くなってきた時期が到来しているように思えるからです。

●日本髪の若手がお姐さんと一緒に三味線・唄を

プログラム演目1今年の「第27回ふるまち新潟をどり」(以下「新潟をどり」。2015年6月21日)においてとくにそれを感じたのは「元禄花見踊」でした。舞踊の舞台で地方(じかた=三味線や唄など演奏担当の芸妓)の台に、日本髪姿の芸者衆が座る光景を見ることは滅多にないのですが(白塗りの化粧に日本髪は本来、立方=踊り担当の芸妓の姿だからです)、この演目では三味線2人、唄1人、そして鳴り物(太鼓、小鼓、大鼓)4人の計7人の若手が、お姐さん芸妓に混じって演奏を担当したのでした。

洋髪に上品な着物をきりりと着こなしたお姐さん芸妓と、日本髪に華やかな着物姿の若手がともに、最若手の振袖さん5人の踊りを支える――。その珍しい光景から、二つの層の融和と古町芸妓の一体感が伝わってきました。

古町芸妓の技芸を保全・継承させるため、2013年4月に新潟商工会議所や市を中心に「古町芸妓育成支援協議会」が設立されました。市からの補助金は主に若手の稽古代に当てられています。今年の3月20日に成果発表会が開催され、「元禄花見踊り」と「小鍛冶」をほぼ柳都さんだけで演奏。地元の応援と、踊りだけでなく三味線・唄・鳴り物にも力を入れる若手の意気込みが形に表れ始めています。

●そして……やっぱりシビレた「相川音頭」

プログラム演目22年ぶりに見た若手の「相川音頭」。編笠で顔を隠し、波の裾模様の着物に小刀をさした3人の侍姿が繰り広げるキレのいい振付の男踊り。……今年もシビレました。日本舞踊の経験もない私ですが、もし神様に「一曲だけ踊れるようにしてあげよう」と言われたら、これを選ぶかもしれない……と思ったほどです!(写真下は終演後、ロビーに出て来た「相川音頭」の踊り手たち)

相川音頭 姿DVD「新潟・古町芸妓の世界 ~珠玉の芸に生きる~」(おそらく10年くらい前に撮影されたものではないでしょうか)に収録された「相川音頭」では、秀千代さん、寿子さん、たまきさんの3人が見事にキレのある勇壮な踊りを披露しています。かつて芸者衆が大勢いたころは、常時3組の踊り手がいたと聞きました。

●進化の兆し――新たな市山流名取と、新たな置屋

今年は、古町にとって二つの大きな出来事があった節目の年でした。4名の若手(紅子さん、あやめさん、あおいさん、華乃さん)が柳都さんで初めて市山流の名取になったこと。そして、柳都振興で10年の芸歴を重ねてきたあおいさんが一本立ちして置屋「津の」を構えたこと。柳都振興(株)設立以来28年目で初めての独立でした。

10年後、20年後、さらに先の古町は自分たちが背負っていくのだという若手の意識の高まりが、今、さまざまな場面で感じられる新潟花柳界。来年、再来年とますます若手とベテランの融和が進み、「新潟をどり」の舞台も深みを増していくのではないでしょうか。地元の人々も、身近に存在するこの新潟の財産にもっと注目して、進化する古町芸妓の姿をリアルタイムで見なければもったいないのになあ……などと思いながら、最終一本前の新幹線で帰京しました。

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