<東京・浅草> 2016三社祭「くみ踊り」。街もお座敷も晴天なり。

雨がつきもののお祭り。「今年は降らなかったね……」。

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●三社祭は、水に縁ある「浅草神社」の例大祭

三社祭には雨がつきもの……これは浅草の人々の〝常識〟だ。といっても単なる統計学的な確率ではなく、三社祭の由来にまつわる由緒正しい理由がある。

話は今から約1400年前、推古天皇36年(628)3月18日に遡る。漁師の檜前浜成(ひのくまのはまなり)・竹成(たけなり)兄弟が江戸浦(隅田川下流あたり。当時は宮戸川と呼んでいた)で漁労中に投網を引き上げると、何と一体の仏像が掛かっていた。兄弟が持ち帰ったこの像を拝した土地の文化人・土師中知(はじのなかとも)は、「これは聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)の尊像である」といい、自ら出家し、屋敷を寺に改めて深く帰依したという。これが浅草寺の始まりである(浅草寺に伝存する『浅草寺縁起』による)。

観音信仰は土地全体に浸透し、檜前兄弟と土師中知の三人は浅草寺の開創者、浅草の開拓者として「三社大権現」の尊称を与えられ、三社権現社に祭祀された。明治六年、三社権現の名前は廃され、以降「浅草神社」と呼ばれるようになった。

三社祭は、浅草神社の例大祭である。浅草の観音様は、もともと水の中から引き上げられたことから三社祭に水はつきものといわれ、地元の人々も〝三日間のうち一度は雨が降るもの〟と覚悟し、実際、不思議とその通りになった。が……今年は降らなかった。伊勢志摩サミット開催に伴う警備の関係から、いつもより一週間早い開催(5月13~15日)だったことも関係しているのだろうか。

祭りには、芸者衆・幇間衆の血も騒ぐ

さて、東京浅草組合(料亭と置屋から成る花柳界の組合)は浅草神社奉賛会の特別会員でもあり、神社とのつながりは深い。三社祭でも、初日の大行列、神楽殿での奉納舞踊、そして「くみ踊り」と芸者衆・幇間衆は大活躍だ。

見番前のお神輿
見番前のお神輿

「くみ踊り」とは、芸者衆・幇間衆(たいこもち)がそれぞれ4~7人程度の組になり、チームでお座敷を次々と回り、余興を披露する三社祭限定の出し物だ。衣裳はお祭り用の特別あつらえ、余興も毎年お祭り用に新しく構成する。「お祭りのときは難しいものはダメ。お客さまにも馴染みのある曲を吹き寄せ風に組み合わせたものが受けがいいんです」と、ベテラン芸者が言う。

もしも浅草花柳界に一年に一度だけ行くとしたら……私は三社祭のくみ踊りのお座敷を選ぶかもしれない。一つのお座敷で、これだけ大勢の芸者衆・幇間衆に会える機会は滅多になく、みんながいつもに増してハイテンションだ。明らかに、祭りは芸者衆・幇間衆の血を騒がせる。……血が騒ぐといえば、かつて芸者衆や箱屋さん(見番の男衆)から聞いた、昔の三社祭の仰天・面白エピソードを数々思い出した。近々、また紹介したいと思う。

●「くみ踊り」は若手を鍛え、ゆう子姐さんをますます元気にする

5月14日、毎年楽しみにしている、割烹「あさくさ」主催の「くみ踊り観賞・お楽しみ会」に仲間を誘って参加した。今年は芸者衆2組(「はな」と「あやめ」)、幇間連「於八七」(おばな)の計3組。お留守番組(くみ踊りに参加しない芸者衆)がお酌や会話のお相手をしてくれて盛り上がっているところに、さらに各組が入れ替わり立ち代わりやってくる……はずが、どういうタイミングか3組とも「あさくさ」のお座敷に集中。何とも贅沢な空間と化したのだった。

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手古舞の「はな」組
手古舞の「はな」組

去年の三社祭はデビュー前の見習いだった「はな組」のとも香さん。初めての手古舞姿に「鏡を見ても自分じゃないみたい……」と戸惑いながらも、堂々とした踊りっぷりだ。先輩芸者衆と組になり、祭りの期間中、朝から晩まで行動を共にし、いくつものお座敷をハシゴする「くみ踊り」は、新人にとっては楽しみでもあり、試練でもある。浅草の若手芸者は昔から、三社祭で鍛えられ、成長してきたのだ。

新調した白の着物がまぶしい「あやめ」組。さらにまぶしく輝いていたのは、その三味線弾きを務めるゆう子姐さんだ。都内最高齢(実質、日本最高齢だと私は思う)現役芸者、92歳のゆう子姐さんが生き生きと、ハツラツと、若手と一緒に「くみ踊り」を動かしている――その姿を目の当りにできたことが、2016三社祭の私の一番の収穫だったかもしれない。ゆう子姐さんが三社祭を盛り上げ、三社祭がゆう子姐さんをますます元気にしている!スキャン_20160518 (2) (800x615)

芸者衆のくみ踊り「あやめ」
「あやめ」組

浅草名物・幇間衆「於八七」組も、今年は小道具を使ってバージョンアップ。笑い転げて酔いが回った……。お開きになり、ほろ酔いで店を出ると外はまだ明るい……。三社祭の一日はいつもより幸せで長い。

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幇間衆の「於八七」組
幇間衆の「於八七」組

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