<フィクション>『幻の柳橋』【1章】昭和37年夏。花火が、なくなる。②

【1】―②

昭和12年を最後に戦争で中断していた両国川開きの花火大会は、23年、11年ぶりに復活した。それは柳橋花柳界の、戦後最盛期の幕開けでもあった。戦争をはさんでの5,6年は花柳界もなりを潜めていた時代である。戦時色が濃くなるにつれ料亭の営業時間も徐々に短縮され、派手な宴会は自粛。芸者の着物も地味になり、ついに昭和19年3月、警視庁は酒屋やバーなどと共に全国の料亭、待合、芸者屋を閉鎖。日本中の花柳界の灯が消えた。

終戦直後の20年10月に料亭や芸者屋の営業が再び許可されると、疎開していた芸者たちも戻りはじめ、花柳界は急激に賑わいを取り戻す。新橋の東をどりが23年に再開、赤坂をどりが24年に開始したのは、花柳界復活を世の中にアピールする十分な効果があったが、それと前後しての花火の開催だった。

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