<東京・新橋>変わりゆく花柳界。「なでしこの踊り」➃。若手新橋芸者の挑戦

③より続く

●若手新橋芸者にとって「なでしこの踊り」は〝挑戦〟だった

「なでしこの踊り」終演後、千代加さん(15年目)とのりえさん(10年目)にお話を伺った。

千代加さん(右)と、のりえさん

新橋花柳界最大の年間行事は、5月末の4日間新橋演舞場で行われる「東(あずま)をどり」。大正14年からの歴史を持つ、東京を代表する花街舞踊だ。芸者が300人、400人といた昭和30~40年代には若手はなかなか役をもらえず、やっとついた役が花や木の枝や水の精など人間ではないことも当たり前だった。人数が減った今でも主役級のキャストは芸歴30年以上のベテランが務めることがほとんどだ。新橋花柳界の層は厚い。10年、15年ではまだまだ〝若手〟の部類なのである。

――〝次世代の東をどりのスターを育てよう〟との趣旨で始まった「なでしこの踊り」。一般のお客さんも新橋の芸者衆と触れ合える場として人気ですね。

千代加さん 東をどりでは大先輩のお姐さんがたが担当される主役級の大役や難しい役を、「なでしこの踊り」では私たち若手がやらせていただいたり、ふだんは女役なのに男役を勉強させていただいたり……。私たち若手にとって「なでしこの踊り」は挑戦と勉強の場です。

のりえさん 初めて新橋花柳界に来られた、芸者さんに会うのが初めてのかた、お座敷ではなかなかお会いできなに女性や若いかたも「なでしこの踊り」にはたくさんいらっしゃいます。私たちが新橋芸者の最初のイメージを決めるかもしれないと思うと……プレッシャーがかかると同時に、責任も感じますね。

千代加さん 「なでしこの踊り」は年に2回(新春と夏)行っています。お正月はお目出度いご祝儀ものが中心ですが、夏は出し物も衣裳も夏らしく雰囲気もがらりと変わります。ちりめん浴衣で、小唄などさらっとした粋な曲が多いですね。

のりえさん 男踊りも、夏は「三社祭」「神田祭」など難しいカシラの役を勉強させていただいたり。新春と夏の両方を見に来てくださると、違う雰囲気を楽しんでいただけると思います。お客さまからのアンケート回答を内容に反映させて、何度来られても楽しんでいただけるよう〝進化〟もしています。

なでしこの踊り 2018 夏

●大先輩を見習って、階段を上り続ける10年目、15年目

――新橋には芸歴50年以上の大先輩も多く、芸者衆の層が厚い花柳界です。芸者さんというお仕事にとって10年目、15年目、というのはどのような意味のある時期なのでしょうか。

千代加さん 10年未満のころは自信もなく、芸者さんという仕事は自分に向いていないのかなと思い悩むこともありました。辞めていく仲間もいて自分自身も迷ったりしましたが、15年目になると、この仕事を続けることに関して揺れる時期は過ぎたような気がします。よほどのことがない限り辞めないだろうな、という覚悟のようなものが生まれた、というのでしょうか……。

のりえさん お正月、節分、なでしこの踊り、東をどり、流派の会など一つの行事が終わったらまたすぐに次、と覚えなければならないことが多すぎて、一年一年があっという間でした。気がつけば10年目。お客さまに顔と名前を覚えていただき、少しずつ慣れてきたかな、と思える時期ですね。東をどりではお客さまと直接お話する機会はほとんどないのですが、「なでしこの踊り」ではお客さまとの距離が近く、「よかったよ」「応援しているよ」などと声をかけてくださると、よし、がんばろう!と励みになります。ほめていただけたことが、というよりも、見ていてくださったことが嬉しいですね。

千代加さん ご夫婦で「なでしこの踊り」に来てくださったのをきっかけに、お座敷にも上がってみたいと、後日、料亭さんにお見えになったお客さまがいらっしゃいました。「なでしこの踊り」を入口に、東をどり、そしてお座敷へと足を運んでくださるお客さまが1人でも増えれば嬉しい限りです。

千代加さん のりえさん 芸事に向き合う姿勢の厳しさと、芸者という仕事に対する意識の高さを持っておられることが、新橋のお姐さんがたの素晴らしいところであり、新橋花柳界の伝統だと思います。「なでしこの踊り」をはじめ、若手の芸者衆がお客さまの前で勉強させていただく機会が増えたのも、先輩芸者衆や新橋組合、新橋演舞場さんなどみなさまのおかげです。与えられたチャンスの一つ一つを、自分たちが成長する階段として生かせるよう、お姐さんがたを見習ってしっかりお稽古して、「芸の新橋」の伝統を守り、下の世代に伝えていきたいと思います。5月の「東をどり」、7月の「なでしこの踊り」でお待ちしております!

*「第94回東をどり」 5月24日(木)~27日(日)一般販売4月中旬予定

*「なでしこの踊り 夏 2018」 7月18日(水)~26日(木)

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