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<東京・八王子> ついにお披露目。50数年ぶりの半玉・くるみさん18歳

花街に〝半玉さんが誕生した〟ことの大きな意味

くるみさんお披露目の手拭い、団扇、くるみ糖(京都・老松)
くるみさんお披露目の手拭い、団扇、くるみ糖

●なぜ、長い間、半玉が出なかったのか

東京・八王子花柳界で半世紀ぶりに半玉(はんぎょく。京都の舞妓にあたる。「お酌」ともいう)が誕生した。置屋ゆき乃恵のくるみさんだ。ベテラン芸者・竹千代姐さんによると、「昔、さざえさんという半玉さんがいましたが、私が出たとき(昭和38年)にはすでに赤坂に移っていました。それ以来半玉さんは出ていません」――。つまり、少なくとも53,4年、八王子に半玉さんはいなかったことになる。

『松づくし』を踊るくるみさん(2016.5.11「八王子黒塀に親しむ会」総会にて)
『松づくし』を踊るくるみさん(2016.5.11「八王子黒塀に親しむ会」総会にて)

〝久しぶりの半玉〟で思い出すのは、新橋花柳界で2008年にお披露目をした菊森川のきみ鶴さん(現在は一本)だ。実に65年ぶり、戦後初の半玉さんだった。なぜこれほど長い間、半玉が生まれなかったのだろうか――。

半玉とは一人前の芸者(一本)になる前の、いわば子どもの芸者で、戦前、玉代が一本の半分だったことからこう呼ばれた。戦前、置屋の家娘(いわゆるお嬢さん芸者)は数えの14歳で半玉になり、17歳前後で一本になるのがごく一般的な育てられ方だった。着物も帯も簪も一流品。一本の芸者姿に比べ派手で豪華な仕度には相当のお金がかかるため、借金の形に置屋に奉公に上がった抱えの芸者は、その姿に憧れながら、半玉で出させてもらうことはよほどの美人でもない限り、稀であったと聞く。

肩上げをした振袖の着物、桃割れの髪に派手な簪――半玉特有の姿は子どもの可愛らしさを最大限に引き立たせるものだ。一方でこのことが、「お座敷に出られるのは18歳以上」と法律改定された戦後の東京で、半玉を出しにくい理由の一つにもなった(京都の舞妓は15歳で出られる)。まして今の時代、大学を卒業後、あるいはOLから転職して芸者になるケースも珍しくなく、デビューの年齢は20代が中心だ。半玉で出すのは年齢的に難しいという現実がある。

とはいえ、半玉が町なかを歩く姿は人目を引き、そこが花街であることを強烈にアピールする。また、「半玉がいるとお座敷が華やかになる」と料亭のお客さんも喜ぶ。半玉は、花街の存在を際立たせ、花街の勢いを象徴するシンボルなのである。現在では、仕度は大がかりになっても、十代ならば(小柄で童顔ならば20歳過ぎても……)半玉で出そうという方針の置屋が少なくない。半玉とは、花街においてこのような存在であり、そのお披露目は一本のお披露目に増して話題になることが多いといえる。

●「八王子黒塀に親しむ会」の歴史とくるみさんの成長

お披露目に先駆け、4月27日に高尾山薬王院(八王子市)に、ゆき乃恵の芸者衆と共に参拝。
お披露目に先駆けて4月27日、高尾山薬王院(八王子市)に、ゆき乃恵の芸者衆と共に参拝。

小学生のころから日本舞踊を習っていたくるみさんは中学卒業後、舞踊を仕事にしたいと、高校には進学せず置屋に住み込みで芸者修業の道へ進んだ。お茶、三味線、踊りの稽古に、イベントでの踊りや仲居さんの手伝いなど忙しい見習い生活を続けて2年。4月25日に18歳の誕生日を迎え、晴れて芸者デビューを果たしたのである。

5月11日、花柳界の応援組織「八王子黒塀に親しむ会」総会において、くるみさんデビューを祝う会が開かれ、私も足を運んだ。同じテーブルには、くるみさんの祖母、母、姉のご家族も。「最初はまったく知らない世界なので心配でしたが、めぐみさんにお会いして、このかたのところなら、と安心しました。あの子は根性はあるし負けず嫌いなので、きっとがんばれると思います」(お母さん)。大丈夫だ。私の知る限り、昔も今も、売れっ子芸者は負けず嫌いだ。

八王子花柳界の灯を消すまいと、地元商工会議所を中心に「八王子黒塀に親しむ会」が発足したのは平成11年。当時、くるみさんは1歳の赤ちゃんだった。18歳になり百数十人の会員の前で堂々と『松づくし』を踊るくるみさんの姿と、「親しむ会」が積み上げてきた17年間の歴史が重なった。

総会中に、会場じゅうがどよめく楽しいハプニングが……。なんと、鶴瓶師匠がNHKの番組『鶴瓶の家族に乾杯』のロケ隊と共に、突然、会場に現れたのである。ロケで八王子を歩いている途中に、たまたま見番を見つけ、たまたまくるみさんのお披露目を知り、やって来たのだという。放送は6月20日とのこと。おたのしみに!

「八王子に花柳界があるとは始めて知りました!」と師匠
「八王子に花柳界がある事を初めて知りました!」と師匠

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<岩手・釜石> 追悼 最後の釜石芸者・艶子さん③ 避難所で八王子に受け継がれた釜石の芸

あの日、避難所の一画が稽古場に変わった。

避難所となった旧釜石第一中学校体育館
避難所となった旧釜石第一中学校体育館

●歩くのも一苦労だったのに、踊るときはなめらかに動く足

2011年6月、八王子芸者のめぐみさんに同行して、釜石旧第一中学避難所に向かった。東北新幹線・新花巻駅で釜石線に乗り継ぎ、東京から片道5時間の長旅。めぐみさんとひと月ぶりの再会を果たした艶子さんは、「うれしくて夕べは寝られなかったのよ。あなたが来るからせめて髪だけは結ってもらったの」とマットレスの上で涙ぐんだ。送られた舞扇を手にすると、座ったままひらひらと舞わせ、上半身だけで踊りだした。 続きを読む <岩手・釜石> 追悼 最後の釜石芸者・艶子さん③ 避難所で八王子に受け継がれた釜石の芸

<岩手・釜石> 「フクシマ・モナムール」 ベルリン国際映画祭で「ハイナー・カーロウ賞」受賞

速報

東日本大震災で被災した釜石最後の芸者・艶子さんと八王子芸者衆の実際の交流をヒントに描かれたドイツ映画、「フクシマ・モナムール」(ドリス・デリエ監督。桃井かおりさん出演)が、第66回ベルリン国際映画祭で、パノラマ部門「ハイナー・カーロウ賞」を受賞しました。

 

 

<岩手・釜石> 追悼 最後の釜石芸者・艶子さん② 津波が流したもの、運んできたもの

2か月ぶりにお座敷に呼ばれていた、まさにその日の地震
艶子さんが約3か月半過ごし旧釜石一中避難所
艶子さんが約3か月半を過ごした旧釜石一中避難所

2011年3月11日は、2か月ぶりに幸楼のお座敷に呼ばれていた日だった。久しぶりのお座敷がうれしくて、昼前に髪結いを済ませ、近所の小料理屋「火の車」から届いた鯖の味噌煮で軽い腹ごしらえをしようとした矢先の、揺れ。「最初はゆらゆらゆらと弱かった。逃げ場を確保するためにすぐに部屋を飛び出して玄関の戸をを開けた。揺れが止まった、と思ったら、次の揺れは大きかった、ぐらぐらぐら」 続きを読む <岩手・釜石> 追悼 最後の釜石芸者・艶子さん② 津波が流したもの、運んできたもの

<東京・八王子> 新春の宴で発見した〝美しき扇形〟

1月3日・八王子芸妓「新春の宴」で幕が開いた2016年

2016セレオ 新春の宴2 昨年から始まった、八王子駅ビルセレオ2階イベントスペースでの八王子芸妓「新春の宴」。テレビドラマの影響もあり予想以上の人出で、すでに椅子は満席、立ち見も多数。しかたなく、誠に失礼ながら3階の通路から芸者衆を見下ろす形になってしまった。しかし、初めてのアングルが意外な発見をもたらす……。扇形に広がる引き着の裾の、なんと美しいこと! 日本髪と裾のボリュームが絶妙のバランスではないか。 続きを読む <東京・八王子> 新春の宴で発見した〝美しき扇形〟

<全国花街>駆け足で振り返る、私の2015年花柳界②5~8月 東京・新潟・京都

<5月>

●<東京・浅草>三社祭お楽しみ会 (草津亭、あさくさ)。

<東京・浅草> 三社祭 芸者衆と幇間衆の組おどり

浅草花柳界のシンボル的存在・明治創業の料亭「草津亭」が、5月いっぱいで店を閉めることになった。思い出深い草津亭の大広間で、最後の「三社祭を楽しむ会」。(現在は浅草花柳界内の新店舗「草津亭」で営業中)。まだ築20数年の頑丈な造りの料亭が、空調設備の老朽化や耐震化に伴う高額な改修費用を負いきれないという理由で、やむを得ず店を取り壊し、更地にマンションが建つ……。似たような話は各地の花街で起きている。惜しい、残念だ、と言うのは簡単だが、直接当事者の話を聞くとやむを得ない選択だったのだろうと思わざるをえない。設備の寿命が建物自体の寿命より短いのであれば、せめて簡単に修理・改修できるような設計・建築方法があるとよいのだが。

「草津亭」最後の三社祭
「草津亭」で最後の三社祭

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<全国花街>駆け足で振り返る、私の2015年花柳界①1~4月 東京・新潟・金沢

<1月> 

東京八王子> 八王子芸妓・新春の宴(セレオ・イベントスペース)へ。新年の買い物客で賑わう駅ビルで初春の舞を披露。人前に積極的に出て行く〝攻めの姿勢〟が、今年も八王子芸者衆の知名度を上げ、マスコミの注目を集めた。

2015/1/4 八王子芸妓 新春の宴
2015/1/4 八王子芸妓 新春の宴

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<東京・八王子>「東京ウエストサイド物語」。12月2日放映芸者衆も出演

八王子芸者が〝芸者役〟でテレビドラマに登場

「八王子芸妓衆かわら版」号外 より
「八王子芸妓衆かわら版」号外 より

●12月2日夜10時から NHKBSプレミアム

八王子芸者衆がてづくりで発行している「八王子芸妓衆かわら版」号外が届きました。12月2日(水)夜10時~NHKBSプレミアム「東京ウエストサイド物語」放映のお知らせです。 続きを読む <東京・八王子>「東京ウエストサイド物語」。12月2日放映芸者衆も出演

<東京・八王子>「八王子まつり」。芸者衆、夜空の下で「宵宮の舞」

「ゴザの舞台、テープの曲、3人の踊り」から13年

八王子まつり 宵宮の舞 (2015.8.7)
八王子まつり 宵宮の舞 (2015.8.7)

●東京が一番暑かった日、芸者衆は幻想的な舞台にいた

東京が37.7度の今夏最高気温を記録した8月7日は、八王子まつりの初日。恒例の人気行事・芸者衆の「宵宮の舞」に行ってきました。開宴20分前に会場の中町広場へ着くとそこはすでに人だかりが……。舞台前に敷かれた桟敷は満席、三重四重の立ち見の人々はみるみる膨らみ、警備の警官がロープを張って通り道の確保のために声を張り上げていました。 続きを読む <東京・八王子>「八王子まつり」。芸者衆、夜空の下で「宵宮の舞」

<東京・八王子>花柳界を舞台の「地域発ドラマ」、置屋で撮影開始。NHKBSプレミアム

八王子ならではの〝花柳界物語〟、今秋放映予定。

仮のチラシ。詳細は番組HPを参照ください。
仮のチラシ。詳細は番組HPを参照ください。

●「八王子まつり」での舞台・「宵宮の舞」がクライマックス?

ここ15年ほどの間に、若い芸者衆が増え、途絶えていた花街の行事も復活し、若手が新たな置屋を開業するなど右肩上がりで勢いを増している八王子花柳界。昨年3月には念願だった第一回「八王子をどり」の開催も実現しました。

東京の多摩地区で唯一残るこの花街は最近、新聞・雑誌はもとより、八王子を紹介するテレビ番組では必ずといっていいほど取り上げられ、全国的な知名度も少しずつ上がってきています。

2015年4月13日にはNHKBSプレミアム「TOKYOディープ!」で八王子芸者衆の日常と仕事が紹介されましたが、この度、八王子花柳界を舞台としたドラマ「東京ウエストサイド物語」の制作が決定。先日、キャストが発表され、歌手で八王子観光大使でもある北島三郎さんの出演も話題になっています。

今週から置屋「ゆき乃恵」での撮影が開始。放映は今秋予定とのこと。

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