● 新橋花柳界への、はじめの一歩
2014年に始まり、春夏2回、新橋若手芸者衆の踊りとお座敷遊びを楽しむイベントとして定着した「演舞場発文化を遊ぶ なでしこの踊り」。2019年夏の回で通算11回目を迎えた。
「なでしこの踊り」は、新橋花柳界へのはじめの一歩として最適な機会だ。
誰でも、電話やインターネットで申し込むことができ、特性会席弁当と芸者衆の踊り、お座敷遊び、歓談を含む約2時間をS席12000円、A席10000円で楽しむことができる。写真も動画もOK。約120の席はほぼ毎回満席の人気だ。
*次回「なでしこの踊り2020早春」は、2月27.28.29日、3月1.2日開催。詳細はこちら。
登場するのは、これからの新橋花街を担う若手を中心とする4人の芸者衆。最近は芸歴50年、60年を超えるベテランの芸者衆も加わり、新橋芸者の風格と芸にとりくむ姿勢が長い歴史の中で連綿とつながってきたことを感じさせる。
●わかりやすい演目の解説
芸者衆の紹介のあと、芸者衆の役割によって異なる着物や帯、鬘などの違いや、これから踊る演目についてわかりやすく説明をしてくれる。
この解説、日本舞踊や邦楽に興味を持てるように実にわかりやすく工夫されている。聞いているうちに、踊りへの期待が否が応でも高まるのだ。
たとえば、端唄「ステテコ節」は現在でいえばラップだ、との解釈で端唄がグンと身近に感じられる。小唄「さつまさ」はきりっと仇っぽく踊り、同じ小唄でも「からかさ」は愛嬌たっぷりに可愛らしく色っぽく踊る、といった違いを教えられたうえで見ると、「なるほど、たしかに……」と納得できる。日本舞踊や邦楽には難しい印象があるだけに、少しでも理解できただけで得をしたような気になる。
●22年前の紅緑会の音源で「夕月」を踊る
今回はベテランのあやさんも参加。プログラムのご挨拶には「古株なれど心は若く……」とあり、ユーモアあふれる自己紹介に、親しみを感じてしまう。
あやさんが踊った演目は常磐津「夕月」。「江戸時代、大阪と京都・伏見を結ぶ淀川で、水上交通の要として発展した早舟の船頭を主題とした舞踊です。今では江戸前の風情に移し替え、男方の姿ですっきりと踊ります」(プログラムより)。
そして、三味線や唄の音源はなんと22年前、平成9年の紅緑会*のときの演奏を録音したものだという。たまたま私はこのときの紅緑会を見に行っていた。プログラムを確認すると、確かに東京新橋組合「夕月」の演目があり、立方(踊り手)は、若竜さんとあやさん!だった。しかもこの年の文部大臣奨励賞・邦楽の部を受賞していたのである。その栄えある演奏が22年後に「なでしこの踊り」で復活したのだった。
「なでしこの踊り」は、〝本物〟の芸にわかりやすく触れることのできる貴重な機会だった。
*全国花街芸妓合同公演「紅緑会」(こうろくかい)。社団法人日本料理文化振興協会主催。昭和55年(1980 )から平成12年(2000)まで明治座、新橋演舞場、国立劇場などを会場に(昭和59年第5回からは国立劇場)開催された。全国からよりすぐりの12~14花街(平成11年は10花街。平成12年は不詳)が参加し、文部大臣奨励賞ほか表彰も行われた。「紅緑会に出る」ことは芸のレベルを認められた証であり、全国の花街の目標だった。開催されなくなって20年になるが、今でも「◯年の紅緑会に出た」ことを誇りとして語り継ぐ花街は少なくない。
©sumiasahara 文章および写真転載の場合は出典明記のこと。