*芸者りんものがたり➀より続く
しばらくたってから「覚えていますか? また話を聞かせてください」と手紙を出すと、「X町へぜひ来てください。お待ちしています」と返事が来た。頃合いを見て電話をすると、体調がよくないので暖かくなってからにしてほしいという。
その後二度ほどやりとりをしたがタイミングが合わず、こちらから何も働きかけないまま年月はあっという間に過ぎた。4年後の春、ついでに足を延ばしたX町の住人から、「りんさんは元気ですよ」と消息が得られた。
次はいつX町に来られるかわからない、急だがもしかしたら会えるかもしれない……とわずかな希望を持って電話をしたが、誰も出ない。伝言を残した留守電に、反応はなかった。
帰宅後、再度試みる。電話口に出たりんの声は、私が名のったとたんに警戒するように硬くなった。
●もう終わりにしてください――拒まれた取材
ご無沙汰していますと挨拶をしたあと、「お聞きしたいことがあって、またお会いし……」と言いかけると、「昔のことはもう話したくないんです」と遮られた。予想外の反応と語気の強さに圧されながらもなんとか抵抗し、ニ三度やりとりをする。
最終的にりんは、「はっきり言います。もう終わりにしてください。来てもらっても無駄や」と拒んだ。
もうこれ以上押すのはあきらめ、今まで聞いた話を書いていいかと尋ねると、「好きにしたらよろし」と投げやりな返事。
今もあのときのように「また芸者になりたい」気持ちがあるかどうかもわからない。余計なことを話したと後悔しているかもしれない。花街名も芸名も仮名とし、細部を変えて「ものがたり」と題したのは、私にりんの心境が察しきれないためである。
*芸者・りんものがたり➂へ続く
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