<京都・宮川町><メディア&記事> AFP通信社・京都の芸妓さん紹介動画に出演しました

フランス人ジャーナリスト曰く、「芸者さんの姿を正しく世界に伝えたい」

AFP通信社ビデオジャーナリストのカンタンさん(本人の了解を得て掲載しています)
AFP通信社ビデオジャーナリストのカンタンさん(本人の了解を得て掲載しています)

●AFP通信社からビデオ映像が配信されました。

タイトルは Japan’s geisha, guardians of an ancient culture

英語版 https://www.youtube.com/watch?v=VLood0Utfhs

フランス語版 https://www.youtube.com/watch?v=b4suQVlZ5H8

世界三大通信社の一つ、フランスのAFP通信社・東京支社が「Geishaの正しい姿を世界に伝えたい」と京都・宮川町の芸妓、菊丸さんを取材。これに、客観的立場から芸者の仕事についてコメントしてほしいと依頼され、先月ビデオ取材を受けました。私が登場するのは最後の30秒ほど、主に「座持ち」について語っています。取材に見えてくれたフランス人ビデオジャーナリストのカンタンさんは、「座持ちという言葉は初めて聞きました。芸者さんの仕事を理解する上での大事なポイントですね」と、短時間でしっかり要点を摑んでくれました。

●ビデオ取材で話した三つのこと

配信されたのはごく一部でしたが、私がこの日の取材で話した三つの内容をここに記したいと思います。

①芸者さんの仕事・・・お座敷を相応しい雰囲気に盛り上げる「座持ち」の技

イメージ 裾 トリミング芸者さんの仕事は、お座敷の中でお客さんをもてなして、「ああ今日は楽しかった」と喜んで帰っていただくことです。そのために芸者さんは踊りや三味線、唄などの芸事以外に「座持ち」という欠かせない技を持っています。座持ちとは、お客さん一人一人に気を配って、タイミングのいいお酌、気の利いた会話をしながら、興が乗ってきたらときには「一緒に遊びましょう!」と簡単なお座敷ゲームを始めるなどして、お座敷を盛り上げることです。

このとき大事なのは、「その場に相応しい」雰囲気を作ること。一口にお座敷といっても、仕事の接待の席もあれば気の置けない仲間内の会もあり、まったく初対面の人同士の宴会もあります。また一つのお座敷の中でも時間の経過とともにお酒が進んでくれば空気も変わってきます。お座敷ごと、時間ごとに変わる状況に合わせて、ちょうどいい塩梅で、その場に相応しい雰囲気を作り上げる――。しかも、これを少しも押しつけがましくなく、さりげなくやってのけるのが芸者さんなのです。

このような「座持ちのいい」芸者さんの入るお座敷は、大騒ぎの後で虚しくなる打ち上げ花火のような楽しさではなく、〝あと味〟のいいものです。その場ももちろん心地いいのですが、家に帰ってお風呂につかったときや布団に入ったときに、「ああー、今日は楽しかったなーー」としみじみ思い出して、また行きたくなる……。そんな良質な楽しさを自然にさらりと作り上げるのが芸者の「座持ち」のなせる技であり、私が芸者衆をもてなしのプロとして尊敬する大きなポイントでもあります。

②花柳界の存在価値1・・・有形無形の伝統文化を遊びの中で触れられる貴重な世界

海陽亭 花2花柳界は、質の高い、本物の日本の伝統文化が凝縮した世界です。芸者さんの仕事場である料亭は純和風建築、和室の床の間には掛け軸や美術品が飾られ、季節の花が活けられ、素材の持ち味を生かした日本料理と日本酒が提供されます。芸者衆は着物や帯はもちろん、簪から足袋まで全身に職人たちの手によるいわば美術工芸品を身につけています。そして、女性らしい言葉遣いで美しく振る舞い、日本舞踊や三味線音楽など日本の伝統芸能を披露します。

そういった目に見える文化だけでなく、相手の様子に気を配って相手を楽しませようとする心遣い、決して出しゃばらない控えめな奥ゆかしさといった、目に見えない日本人の心も花柳界の中には生きています。

そして、花柳界のいちばんの魅力は、このような有形無形の日本伝統文化を、私たちお客さんはただかしこまって静かに観賞するのでなく、芸者さんとお酒を酌み交わし、会話をし、ときには芸者さんの三味線で唄ったり踊ったり、ゲームで笑い転げたりと〝遊びながら、遊びの中で〟文化に触れられることです。こんな世界はほかにはありません。料亭や芸者衆の数が減っている今、花柳界の存在はますます貴重なものとなり、価値も高まっているといえます。

③花柳界の存在価値2・・・花柳界には人間関係の基本がある

お座敷おどり 後姿もう一つ、私は、花柳界には人間関係の基本があると思うのです。芸者衆や料亭さんと馴染みのお客さんは人間同士の深い信頼関係で結びついており、40年、50年、それこそ一生のつきあいとなります。そういう方々のいるお座敷の雰囲気は、ほかのお客さんが同席してもとても気持ちのいいものです。その方々の言動を見ていると、お座敷という一つの限られた空間と時間を共有する者同士、みんなが心地よく過ごすためにはどう振る舞い、どんな会話をしたらいいか、をいつも頭においている様子が自然に滲み出ているのです。

この意識を持って人と接することは、花柳界に限らず、職場、家庭、学校、地域社会などすべての一般社会、日常生活においても大事なことなのではないでしょうか。私が花柳界という世界と長くつきあってきて、実生活の中でいちばん役に立てたいと思うのはこのことなのです。

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