<東京・全体> 東京芸者はやっぱり〝奴さんだよっ!〟

東京花柳界が「奴さん」で一つになった日

奴さんだよ

「奴さんだよっ!  エ~~~、やっこさ~ん、どち~ら~ゆ~く  ハア こりゃこりゃ……」

あの日から、気がつくと頭の中にこの曲が流れている。東京の芸者衆ならだれでも踊れるお座敷の定番曲「奴さん」だ。そして〝あの日〟とは10月6日、「全国芽生会連合会全国大会東京大会2015」が行われた日。年に一回、各地区持ち回りで全国大会が開催されており、今年は12年ぶりの東京大会である。

大会式典「寿道中双六」では、ちゃっきり節、黒田節、おてもやん、阿波踊り、花笠音頭、相川音頭など各地の民謡やご当地ソングに合わせて、新橋・赤坂・芳町・神楽坂・浅草の芸者衆が次々と踊りを繰り広げた。曲によっては二花街、三花街合同で踊る。地方(じかた)も混合編成だ。京都の「祇園小唄」を、大阪の「へらへら」を、東京芸者が踊るなんていったい誰が想像しただろう。もちろん主催者側が本家本元に挨拶に出向き、許しを得た上で実現したものだ。

2015.10.6 東京芸者、「阿波踊り」を踊る
2015.10.6 東京芸者、「阿波踊り」を踊る

そして最後を〆た曲が、東京を代表する「奴さん」。20名近い東京の芸者衆が全員揃って能舞台で踊るというなんとも贅沢な奴さんだ。しかし……あれ? なんだか芸者衆の動きが合っていない。それもそのはず、各花街で日本舞踊の流派が違うので同じ曲でも振付が異なるのだ。あえて振りを統一せず、それぞれが普段どおりに自信と愛着をもって踊る奴さん! これこそ、本来の〝東京芸者の奴さん〟だ。

その後の懇親会では各店が趣向を凝らした料理を提供する中、突然「奴さん」の曲が流れ、羽織袴姿の東京芽生会若旦那連中が踊り出したではないか! 料理のプロでも舞踊は素人。「東京の料理屋たるもの、『奴さん』くらい踊れて当たり前だ!」の心意気で猛練習したのだという。

翌日、某料亭の大広間では前代未聞の宴会が開かれた。東京の五花街の芸者衆が一つのお座敷に集い、お客さんをもてなす――花柳界史上初の画期的なことである。東京では昔から各花柳界ごとにしっかりした垣根があり、芸者衆がそれを飛び超えてよそ土地でお座敷をつとめたり、違う花街の芸者衆が一つ座敷をつとめるなど、まず考えられないことだった。そしてこの宴会を〆たのも、芸者衆全員の「奴さん」だった。

「大江戸寄席と花街のおどり」2015.11.8開催
「大江戸寄席と花街のおどり」2015.11.8開催

「奴さん」で東京の芸者衆がまとまる――。もしかしたら、将来の東京花柳界が進む方向性の一つを象徴しているのではないだろうか? 11月8日には東京六花街合同の「大江戸寄席と花街のおどり」も開催される。この日、東京の花柳界の歴史が動いた……ような気がした。

東京のどこの花柳界でも芸者衆は、「奴さん」をとっても楽しそうに踊る。若旦那たちも本当に楽しそうに踊っていた。……うらやましかった。私も「奴さん」を覚えたくなった。

金沢のお茶屋遊びは、お客さんの打つお座敷太鼓で一気に盛り上がる。自分で打つ楽しみは、聞く楽しみに優るのだろう。上手下手じゃなくて、人間というのは本能的に踊ったり、唄ったり、太鼓を打ちたい生きものなのだ、とくに酒席では。……そうだ、これからの花柳界発展のキーワードの一つは「参加型」だ。

東京人たるもの、「奴さん」くらい踊れなきゃ……!

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