<東京・浅草> 毎回満席「お座敷おどり」② 観音裏の芸者衆が、〝表〟で踊る意味

知名度をさらに上げた浅草芸者。次は、お客さんを観音裏へ。

お座敷おどり 全体風景

●浅草寺の裏手に静かに広がる浅草花柳界

「浅草に芸者さんがいるのは知っているけれど、見かけたことがない。一体どこにいるのだろう……」と不思議に思う人も少なくないかもしれません。実は浅草の花柳界は、人々が観光目的ではまず足を延ばすことのない場所にあるのです。

そこは浅草寺観音堂の裏手――通称「観音裏」。台東区浅草3丁目を中心とするこの一帯は、観光客で年中賑わう雷門や仲見世あたりとは趣きが大きく異なり、静かで人影もまばらな界隈です。

観音裏のメインストリート・柳通りには見番(東京浅草組合=料亭と芸者置屋で構成する花柳界の組合事務所)があり、現在、料亭(芸者衆を呼ぶことのできる店)は8軒。25名の芸者衆(他に来週6月16 日にお披露目をする新人さんや見習いさんがいます)、7名の幇間衆(たいこもち)が日々、お稽古に励みお座敷を務めています。

4シーズン、全68公演、のべ約7000人が入場

浅草お座敷おどり パンフ

このように、ふだんは観音裏を拠点に活動する芸者衆が、いわば〝観音表〟の雷門前に出向き、区立の会場で一般のお客さんや観光客の前で踊るところに、「お座敷おどり」(主催:浅草観光連盟 後援:台東区・ときめきたいとうフェスタ)というイベントの価値と意味があります(詳細は上のチラシでご確認ください)。「入場無料」という思い切った設定も、これまで花柳界に縁のなかった人や将来芸者さんになりうる若い女の子たちなど、幅広い層に向けて浅草芸者の存在をPRするという目的ゆえ、でした。

一昨年(2013年)秋にスタートし、今年で3年目。2013年秋に12日間24公演(1日2公演実施。以下同)、2014春に4日間8公演、同秋に10日間20公演。そして4シーズン目の2015年春は8日間16公演(4月11.25日、6月6.20.27日、7月4.11.18日)の開催。

7月まで行えば全68公演。1回の入場者数は100人余り。つまりのべ約7000人が浅草芸者の踊りを間近で見ることになります。

お座敷おどり 後姿

私は1シーズン目から6,7回足を運び、主催者および芸者衆側が会の進行に工夫と改良を重ねていく様子を見てきました。観客の3分の1から、回によっては半分近くを占めることもある外国人にもわかりやすいよう、英語版のチラシが作られ、司会者や芸者衆が英語で挨拶・説明する分量が次第に増え、しかもみるみる流暢に。(6月6日には、なんと浅草観光連盟副会長がフランス語で挨拶をしました!)。

トーク途中のお客さんの笑い声も増えてきました。芸者衆本来の座持ちの技が、お座敷とは少し勝手の違う浅草文化観光センターの会場でも生かされたのでしょう。

●その〝1人〟のお客さん予備軍を確実に拾いたい

主催する浅草観光連盟の冨士滋美会長に、これまでの成果と今後の課題について伺いました。

「指定席75名と立ち見約30名は毎回ほぼ満員御礼。ほとんどのお客さんが期待以上だったと喜んでくださいます。また、関連性ははっきりとわかりませんが、イベントを始めてから芸者志望の若い女性が3人現れました。浅草芸者衆の知名度を上げるという第一の目的には十分な手ごたえを感じており、次なる課題は、この会を足がかりにいかにして実際のお座敷へ足を運んでいただくか――。まずは見番の広間等で行われるリーズナブルなお座敷遊びの会へ、そして料亭さんが主催する会費制の宴会へ、ゆくゆくはお馴染みさんになってより個人的なお座敷へ……とつながってくれればベストですね」

ゆうゆう亭

たしかに、このイベントに訪れた大勢の中には、芸者衆の踊りを目の当りにして「もう一歩先へ進んでみたい。次はぜひ、芸者さんのお酌でお酒をいただきながら踊りを楽しみたい」と思う人もきっといるはずです。それが100人に1人、200人に1人だとしても、分母が大きければ分子も多くなる。その〝1人〟を確実に拾っていくには――。

何か具体的な「次への道しるべ」となるモノが置いてあるとよいと思いました。たとえば、参加しやすい価格のお座敷遊びの会やイベントのチラシ、浅草花柳界を紹介する何か(料亭や芸者衆、年間行事の案内等)などでしょうか……。また、人手や時間の問題で難しいかもしれませんが、簡単な「お座敷遊び相談窓口」のようなものが設けられていたりするとお客さんも気軽に質問が出来て一歩を踏み出しやすいのでは、と思いました。

とりあえず会場で何か尋ねたいことがありましたら、浅草観光連盟のスタッフ(緑色の半纏を着ています)にお声掛けください、とのことです。

●全国に先駆けて新しい試みに挑戦してきた浅草

思い起こせば20年ほど前、多くの花柳界が、従来のように社会的地位と経済的余裕のある限られた層だけに目を向け続けることに限界を感じながら、打開策を模索していたころ――、新たな客層を開拓すべく、全国に先駆けてお得な料金体系の「お座敷入門講座」を始めたのが浅草花柳界でした。

その後、料亭、芸者衆、見番、そして観光連盟をはじめ地元の人々が試行錯誤を繰り返してきた結果、現在、浅草ではさまざまな形で「一般のお客さん大歓迎」のお座敷イベントが行われています。「お座敷おどり」は、客層のすそ野をさらに大きく広げた点で、浅草の今後にとって大きな意味のある挑戦だったと思います。

(*日程は未定ですが、2015年秋も開催予定とのことです)

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